この記事は、もともとチーム馬の骨ニュースレターに掲載した書評です。6/19(土)読書会のテーマ本にしたのでブログでも(少しだけ変えて)ご紹介しています。読書会の詳細と申し込み方法は、こちらの記事をどうぞ。

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こんにちは!今回のニュースレターは書評です。

さいきん出会った心のよい人に、知らない作家のファンタジー小説を教えてもらい、読みました。エリン・モーゲンスターンの『夜のサーカス』という本です。

ブログの『1日1冊』をチェックしてくださる方にはバレていると思いますが、わたしはファンタジーやSFや異世界ものを読みません。

なぜだろう。非日常に興味がないから?それとも非日常を日常として見てしまうから?

めっちゃつまんない人みたいだわ。まあでもそれがわたしなので仕方ありません。

素直に読んでよかった!です。ふだん読まないジャンルを読む体験と、それについて考えるのがおもしろかった。

本の内容も、1.見かけ重視で(装丁や挿絵のことではなく、文章の描くビジュアルが美しいという意味で) 2.静かなのが好きで 3.ひと混みがダメなわたしにぴったりでした。

版元ドットコムの紹介文によると、

夜だけ開く黒と白のテントのなか、待っているのは言葉を失ってしまうようなショウの数々。氷でできた庭、雲の迷路、優雅なアクロバット、ただようキャラメルとシナモンの甘いにおい…しかし、サーカスではひそかに熾烈な闘いがくりひろげられていた。

若き魔術師シーリアとマルコ。幼いころから競い合いを運命づけられてきた二人は、相手に対抗するため次々とサーカスに手を加え、魅惑的な出し物を創りだしていく。しかし、二人は、このゲームの過酷さをまだ知らなかった―魔法のサーカスは世界中を旅する。

風変わりなオーナー、とらえどころのない軽業師、謎めいた占い師、そしてサーカスで生まれた赤毛の双子…様々な人々の運命を巻き込んで、ゲームは進む。世界で絶賛された幻惑とたくらみに満ちたデビュー作。

なのだそうです。が、実際には

「熾烈な闘い」とか「過酷」とか「幻惑とたくらみ」には満ちていません。(このようにすると本が売れるのかもしれませんね)

英語版の本の紹介文も刺激的なキャッチコピーまんさい。そういう内容だと思って買って読み、

「これが競争?闘いなんてないじゃん。だまされた」「プロットがない!カタルシスがない!」

と怒っている人々が、レビューサイトにいましたよ。

でもそんなだから、怨念ドロドロや戦闘シーンが苦手なわたしが楽しめたのです。めでたしめでたし。

ところでお能には幽霊(や妖し)の出てくる話がけっこうあります。パターンとしては、

幽霊(や妖し)が現れる→自分が話したいことをひとしきり話して満足→「さらば。」と消える→また現れる→あれこれ話したり踊ったりして→気が済んだら「じゃ。」と消える→終わり。

『夜のサーカス』は550ページの長編ではありますが、細切れの章で構成されています。

章は時系列に並んでいるわけではなく、あくまで語り手が話したい順。なので話はあちこちに飛びます。

読み手が頭のなかでがんばって時系列に並べ替えようとすると、フラストレーションが溜まるかもしれません。

お能なんだから(って勝手に決めてますけど)新たなチャプターで語り手が話はじめたら、そのつどフンフン話を聞いて、眠くなったら途中で寝てもいいのでは。

で、そのつどフンフン聞いてる話が、絵としてきれいで、ローテンションで、音も静かなのです(なんといっても夜のサーカスですからね)。だからつかれない。

文章を描写するのに「視覚的につかれない」というのは変かもしれません。が、そうなんです。

たとえば、このサーカスに使われる色は白と黒のみ。サーカスの「追っかけ」をしている人達の服装は決まっていて、白か黒かグレーに小さな赤をぽちっとプラスすること。

絵になった文章を見たときに、音になった文章を聴いたときに、つかれない、美しい本です。

 

the night circus (2)

 

話の舞台は19世紀末のロンドンやボストン近郊。昔の人の日記を読むのが好きなわたしは最初のうち戸惑いました。

わたし1 「な、なんだこりゃ?19世紀末のロンドンではありえないのでは・・」
わたし2 「いいの!ファンタジーなんだから。19世紀末のロンドンの形を借りた独自の世界と思ってあれこれ気にしないで読むっ!」

わたし1 「なんか話とか浅いんですけど・・」
わたし2 「いいの!ファンタジーなんだから。ダイビングじゃなくて浜辺をちゃぷちゃぷ散歩してると思って読むっ!」

ファンタジー初心者は、いろいろ不慣れなのです。

それでも同じ著者の2作目「The Starless Sea」を読み始めましたよ。(これも馬の骨ブログの読者の方に合いそう)

では皆さま、よい週末を!安全にお過ごしください。

あゆう子

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the night circus (3)

 

本日のスペシャル

はじめて訪れた平塚の街がすてきでした。大事な用のついでに:

平塚八幡宮でもふもふな神馬がヒマラヤの塩の塊をなめるのをながめ、木版画の展覧会で1920年頃の風景をながめ、市庁舎脇の蒸気機関車D52をながめ。あんがい気軽に過去と現在を行ったり来たりできるものだなあ、と思う休日です。

最近の1日1新:平塚
1日1冊:Erin Morgenstern「The Starless Sea」つづき。

 

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