チーム馬の骨ニュースレターから、あゆう子お気に入りのエピソードをお届けします。2023/07/21にお送りしたものです。

おはようございます。こんにちは。こんばんは。七日間、いかがお過ごしでしたでしょうか。

今日のトピックは「1958年ごろ」のパート2です。ちょうど4週間前(2023/06/23)のニュースレターの「2.1958年ごろ」で、1950年代の古い日本の映画をいくつかご紹介しました。その二ヶ月くらい前に(1950年代の日本の映画をいっぱい観ておいてよかった)と思う出来事があったから。

 

2023年ごろ

移動の途中につかれて知らないカフェに寄りました。駅のパン屋さんのイートインコーナーで、ルイボスティーがある。ひとり用(またはかなり仲良しふたり用)の小さなテーブルが3つ、カウンターに席が3つ。換気がうまくいっているのか空気がきれいです。

真ん中のテーブルを選び、脱いだジャケットを表裏にたたみ、荷物と小物を自分の周りの小さなスペースにほどよくおさめ、わたしも席におさまります。片側だけでなく両方のお尻で座るのが吉。

お茶はまだ熱いみたいなので、しばし待つ。ほっ。

っとしてたら隣のテーブルに80代くらいのマダムが。黒ゴマをみっしりまぶして揚げたあんパンとアイスカフェラテのトレーを、そお~っとテーブルに置くところ。なんてバランスのいいおやつなんだろう。

水滴のいっぱいついたカフェラテのカップにはプラスチックのふたが付いてます。マダムの右手は楽器を演奏しているみたいに細かく震えて震え続けて。取れないみたい。「お取りしましょうか」と声をかけたら「ありがと、お願いしていい?」と快諾されてお取りしました。

そしたらマダム必死に話しかけてきた。(こういうことってありますか?)
わたしは(ぎょぎょ。)っとしましたが、座ったら少し元気でてきたし、つかれたら「わたくし本を読みますので」とお伝えすればいいので、ルイボスティー飲みながらお話きいてみた。

 

1958年ごろ

いまから65年前のこと。銀座のとあるデパートの受付嬢だった二十歳のマダムには、好きな人がいました。近くで貿易関係の会社を経営する男性です。デパートのお客さんで、優しく落ちついた感じの年上のひと。(←デパートの人たちは彼を知っている。近所の会社の人だから)

男性はちょくちょくデパートに顔を出します。

マダムのところに「遊びに」来てくれるときは、他の受付嬢のみんなの分もお菓子を買って来てくれる。みんなを喫茶店に連れ出してご馳走してくれたりも。

会うのが楽しみでしかたなかった。でも彼には妻も子どももいるでしょ?好きになっても結婚できないのはわかっていたの。
初めてふたりきりで喫茶店に行ったときね。うれしかった。ああ、どうしよう、でも彼には妻も子どももいる。私にはそんなことできない。私にはそんなことはできない。どうしようどうしようって。そしたらね

彼「うちの息子に会ってくれませんか?息子のお嫁に来てもらえないだろうか」

。。。。。。。

いっしゅん絶望したマダム、なんかどーでもよくなった。まいっか、他にやることないし。と、お嫁に行きました。

マダム「で、結婚して64年。」

 

マダム「私ね、父がその前の年に52歳で死んだの。52歳よ。若いわよね。私ね、父のことがいちばん好きだったの。さみしくてさみしくて父のいない家には居たくない!って。

いま考えると、だからお嫁に行くことにしたんだと思うの。お嫁に行けば主人のお父さんの近くにいられると思ったけど、主人のお父さんも私がお嫁に行って2年で死んじゃった。」

マダム「うちの主人、93歳なのよ。お友達のご主人はみんな70代で亡くなったのに、うちの主人まだ生きてるの!いま何してると思う?」

わたし「はあ、何してらっしゃるんですか?」

マダム「主人いま社交ダンスのレッスンに行ってるのよ!!!信じられる??93歳なのよ」

わたし「はあ、お元気でらっしゃるんですね」

マダム「社交ダンスから帰ってきたらテーブルの前に座ってお昼が出るの待ってるの!作るのめんどくさいからここでパン買ってくの。でも私はここでランチするの、独りがいいから。私もう85歳なのよ!!もう疲れた!!疲れたのよ!!ひとりになりたい」

わたし「それは・・つかれましたね」

ちょうどいいときがなかったんですね。(わたしも覚えがありますよ、ちょうどいいときがなかった覚えが)

 

タイムトラベル

1950年代の映画を観ておいてよかったな、と思ったのはですね。マダムの話を聞いてるあいだ、脳内にビビッドな映像が現れたから。

その頃の銀座の街並み、デパート店内のしつらい、二十歳のマダムとデパートの「他の女の子たち」が差し入れのお菓子に大喜びする様子、マダムが好きな人の姿と言葉づかい、ふたりきりで会う喫茶店のタバコくささ、二十歳の「女の子」の寄る辺のなさ。

タイムトラベルは、いつだってできます。

 

本日のスペシャル

この一年にお送りしたニュースレターはサブスタックのAyuko’s Newsletterというページから、まとめて読めます。が、それより前のニュースレターは購読者の方の受信箱だけでしか見られないので!少しずつブログとサブスタックで公開していきます。(メールチンプのエクスポート機能でいっぱつ!と思ったら日本語が文字化けしちゃってダメだったので手動でこつこつ。コピー&ペーストです・・まいっか)

アイキャッチ画像は「Pedestrians in Ginza by Kawakami Sumio」パブリックドメインです。Look and Learn: History Picture Archive という、レトロな画像を無料でダウンロードできるサイトで見つけました。

YR0481587

本日のスペシャルは、ひとつめの記事にあります。

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