心的外傷後ストレス症(PTSD)に対する新しい暴露療法「WET(Written Exposure Therapy)」の教本をご紹介します。

 

Q 本の正式なタイトルは?

A 「Written Exposure Therapy for PTSD: A Brief Treatment Approach for Mental Health Professionals(PTSDのための『書く』暴露療法:精神保健専門家のための手引き)」(日本語タイトルは、わたしが和訳しました。)

APA(American Psychological Association アメリカ心理学会)の通販ページからも購入可能。アマゾンでは「サンプルを読む」ボタンで、APAでは「View sample pages from this book」PDFで、サンプルを無料閲覧できます。

 

Q 出版元は? A APA(アメリカ心理学会)です。

 

Q 著者はどこの誰?

A National Center for PTSD(米国国立PTSDセンター)のディレクター、Denise M. Sloan(デニース・M・スローン)とBrian P. Marx(ブライアン・P・マークス)。

Denise M. Sloan(デニース・M・スローン)

心理学者。National Center for PTSD(米国国立PTSDセンター)のBehavioral Science Division(行動科学研究部門)のAssociate DirectorBoston University医学部で精神医学を教える教授でもある。専門は、psychosocial treatments for PTSD and emotion in psychopathology(PTSDに対する心理的治療、精神病理学における情動)。

Brian P. Marx(ブライアン・P・マークス)

心理学者。National Center for PTSD(米国国立PTSDセンター)のDeputy DirectorBoston University医学部で精神医学を教える教授でもある。専門は。behavior therapy, PTSD assessment, and the effects of trauma(行動療法、PTSDアセスメント、トラウマがおよぼす影響)。

 

Q いつ出版された? A 2019年4月です。

 

Q 持続エクスポージャー療法(PE)や認知処理療法(CPT)と比べて効果は?

A 認知処理療法(CPT)、持続エクスポージャー療法(PE)、眼球運動による脱感作と再処理法(EMDR)と同様、WETもEBP(エビデンスベースドプラクティス)のトラウマフォーカスト心理療法です。

CPTとPEとの比較においては、非劣性試験でWETがCPTとPE劣らないことがわかっており、WETの脱落者が有意に少ないという結果が出ています。わたしが探したところ、EMDRについては非劣性試験は行われていないようですが(今ごろ誰かがやってるかもしれませんね)、EMDR(CPTとPEも)と比較した場合、WETの脱落率は有意に低い、という文献もあります。

WETとCPTを比較した場合、効果は同じくらい、しかし、WETは時間とコストが格段に低く、脱落率も低い。はるかに少ないリソースで同様の治療効果を上げている、というのが新たな治療として注目されている理由。

 

Q 実際には何をするの?

(今日は時間切れなのでのちほど追加します。他の筆記療法とは違う特有のルールがあり興味深いのです。もちろんエビデンスベースドなので、15年くらいあれこれ試して、もっとも効果が高いやり方を精査して治療プロトコルを開発したわけです。研究者ってすごい)

 

Q 書くのが得意な人のための治療?

実験によると、書くことが得意でない人、書くことに慣れていない人、書く言語が母語でない人にとっても、効果は変わらない。(時間切れなのでこれものちほど追加します)

 

そもそもこのブログ記事は誰がなぜ書いた?

現在のところ、WETに関する情報は、日本語ではほぼゼロ。本が出てからしばらく経ちますが、見当たりません。

専門家の方にはWET(Written Exposure Therapy)のことを知ってもらい・興味をもってもらい・さらに現場で使ってもらえたらうれしいですし、クライエントの方には(お。こういう方法もあるんだ)と思ってもらえたらうれしいのです。

(ふだんからこのブログを読んでくださっている読者の方々は、いきなり新たな話題が出てくるのに慣れてくださっているかと思うので、ふーん・・と読んでくださってるかな、と想像しています。笑)

わたしは心理の専門家ではありません。臨床心理士でも公認心理士でもなく、心理学で Ph.D. を持ってるわけでもありません。大学で心理学の授業を取ったことはありません。

ただ、たまたま十代の終わりから二十代にかけて、心理のことを専門家から英語で教えてもらう機会があり、それと好きなので、何十年か経った今も勉強を続けています。(毎朝10分リネハン博士のDBT Skills Training Manualを読んでは感動しています。たしかにヘンですね)

WETについては、治療では具体的に何をするのか、リソース集、WETのオンラインコースのレビューなど、いくつか記事を投稿していきます。ではまたそのときに。

 

eye catch image

 

本日のスペシャル

今日ご紹介した教本の著者らによると、WETの原型は1980年代から1990年代にできた「Expressive Writing Therapy」なのだそうです。開発した心理学者 James W. Pennebaker の本「Expressive Writing: Words that Heal」の冒頭に、

“Writing saved my life.” From best-selling authors to private journal keepers, from students entering college to soldiers returning home after deployment, from those who recently lost a loved one to those who suffer from childhood violence, we hear how writing saves lives. I’ve said the same thing myself.

「書くことに命を救われました。」ベストセラー作家から個人的に日記をつけている人まで。大学の新入生から派兵を終えて帰還する兵士まで。愛する人を亡くしたばかりの人から幼少期に受けた暴力に今も苦しむ人まで。書くことがいかに私たちの命を救ってくれるかを、何度も聞きます。私自身も同じことを言ってきました。

こんなふうに書かれています。わたしも。

1日1新:Sunsana
1日1冊:James W. Pennebaker「Expressive Writing: Words that Heal」少々。

 

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